「北限のいちじく」として有名な、秋田県にかほ市産のいちじくは、控えめな糖度を補い、また、厳しい冬を越す保存食となるべく、「いちじくの甘露煮」として秋田の暮らしのなかに浸透してきました。
しかし時代は変わり、甘露煮をつくるお母さんたちは随分と減っています。緑色に輝く小さないちじくが、コトコトと鍋のなか、その内側に秘められた自らの赤に染まりゆく「にかほの風物詩」を、なんとか若い人たちにも継いでいけないものだろうか。各家庭でご馳走になる甘露煮が秋田の楽しみの一つでもある私たちは、いまそんなことを考えています。
また、かつてとは違い、ひたすら糖度の高さを求めるのではなく、その土地で育った素材そのものの多様な美味しさを求める時代にあって、これまでは、品種自体の問題や、生産技術、また何より流通の事情から、秋田ではほとんど食されてこなかった、北限の完熟いちじくの生の美味しさも、新たに伝えたいと思っています。
これらの思いを強くメッセージするべく、敢えて生産者の皆さんがもっとも忙しい収穫最盛期に、にかほの皆さんとともに「いちじくいち」というマルシェを昨年9月末に初めて開催しました。場所は秋田県にかほ市にある旧・小出小学校。残念ながら昨年廃校になってしまった小学校の校舎を活用しました。初めて開催した昨年の「いちじくいち」は、国道から車で10分以上かかる辺鄙な場所にも関わらず、二日間で約5,000人という、私たちの想像を遥かに上回るたくさんの方にご来場いただきました。
鳥海山の麓のこの豊かな土地で、多くの子供たちが育ってきたように、いま、にかほでは多くの生産者の手によって、まさに未来への希望とも言うべき、いちじくの若木が次々と植えられています。
これからさらに生産量が増えていく「北限のいちじく」を軸(じく)にして、もういちど身の丈の豊かさについて考えられるような市(いち)を今年も開催します。人口も経済も数字を追えば右肩下がりですが、暮らしの豊かさは、自分たちの考え方次第でいくらでも増幅します。そんな未来を秋田から想像し、今年もまた実践してみたいと思います。
いちじくいち実行委員